プロレス取調室 玉袋筋太郎

自分語りの嘘八百

抱腹絶倒!! プロレス取調室 ~昭和レスラー夢のオールスター編~

抱腹絶倒!! プロレス取調室 ~昭和レスラー夢のオールスター編~

 登場いたしますレスラーは、
 藤原喜明渕正信藤波辰爾天龍源一郎グレート小鹿木村健悟越中詩郎グラン浜田将軍KYワカマツ鶴見五郎

 呑屋の馬鹿話の定番に悪口というのがある。共通の知人の悪口は美味しい肴であることは間違いない。日頃親しそうにしている人間をボロカスにけなし、曰く「いないのが悪い」というやつだ。取り調べ場所は居酒屋(加賀屋)で取り調べ担当は玉ちゃん以外にライターの堀江ガンツ構成作家椎名基樹。この二人、流石に博識でツッコミも達者だけど、ゲストから話を引き出すのにはあまり役に立ってなくて、自分たちだけで盛り上がる傾向がある。だから、多少苛つかせるのだよなあ。実際、今回の一番面白いのは意外や鶴見五郎で、鶴見はこの二人の妨害にもめげず、自分からどんどん話題を盛り上げている。アフロヘアーのヒールというイメージしかなかったのでこれには驚いた。因みに東海大学理学部物理学科卒なんですと。
 おれの拙い人生経験から言えることは、自分語りの八割は嘘だということだ。無論結果まで嘘を付くのは詐欺師だが、その結果に関して自分がどう関与したかなんて、後からなら何だって言える。力及ばずに挫折したことを、興味が失せてぶん投げたという類だ。結果は「失敗」であることは同じにしても。
 その嘘(というかほら話)を突っ込みもせずに凄え凄えとヨイショするのはいつものパターン。その最たるものは木村健悟

木村 それでロスでは田吾作スタイルだったけど、その後、メキシコに行っても、メキシコのスタイルにあわせなかったから、それで天然のヒールになっちまったんだよ。
ガンツ もの凄いヒートを買うヒールだったらしいですね?
木村 いや、自分ではヒールのつもりはないんだけどね。俺はただ、アントニオ猪木の看板を背負ってるから、「レスリングっていうのはこういうもんだ」って貫いただけで。
ガンツ ガチガチに猪木イズムを貫いたわけですね。
玉袋 カッコいいなあ〜
木村 だから、向こうにエル・サントっていたでしょ?
玉袋 おお、エル・サント
木村 何か訳のわかんないクソジジイ!
玉袋 ワハハハハッ!

 と持ち上げておいて、鶴見五郎とはこんな会話をする。

鶴見 そこに木村健悟がいたんだけど、ヤツは現地で評判悪いんだよ。
椎名 評判が悪い!(笑)。どう悪かったんですか?
鶴見 向こうのトップとレフェリーが、「あいつはダメだよ。試合も良くないし」って言うから、「な何で?」って聞いたら、「あいつは人の技を全然受けない。自分のやりたいことだけやって」ってね。
玉袋 ダメだよ。それをやっちゃ。
鶴見 俺も「ヨーロッパでそんなことをやってもダメだよ」って言ったんだけど、「俺は新日本のスタイルだから」って、聞かないんだよ。
椎名 メキシコ時代もそうだったって言ってましたよ。それで、エル・サントに対して「クソジジイ」って言ってて。
鶴見 あいつはね、弱きに強いんだよ。
玉袋 出ました(笑)。

 そして、ここからはまさに「いないのが悪い」とばかり木村を腐しまくる。それが面白くないわけがない。

 藤原、藤波、天龍なんてメインエベンターの話は意外に面白くない。逆に狂人、将軍KYワカマツの淡々とした普通の話が面白いんだよねえ。全部読み通すと、総じて評判が悪いのは、グレート草津、カブキ、グラン浜田(本編にも登場するのに)といった面々。そんなこと、傍から見ているだけでは全然分からないからへえと感心するばかり。
 なにより驚いたのは、渕正信が拓大の柔道日本一岩釣兼生とスパーした時のエピソードだ。あの「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」特に漫画版では殴り込みをかけてきたみたいなセンセーショナルな展開だったが、淵は気負わずにスパーして引き分け、そのあと岩釣はコシロ・バジリ(後のアイアン・シーク)とスパーして関節を何本か極められたという。しかも、そこには馬場だけではなくジャンボ鶴田もいたというのだから、殴り込みなんか出来るわけがない。そして、こうした話にはなんか信憑性を感じてしまうのだな。
 まあ、全部ウソだとしてもコレだけ愉快な法螺話が聞けるなら、それはそれでいいんじゃないかな。ということで。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

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