フロスト始末 R・D・ウィングフィールド

嫌いなものが勢揃い

 更新をサボっていたら、年をまたいでしまった。本当にみっともない。
 と言いつつも気を取り直して、フロストシリーズの最終話『フロスト 始末』を語るとしよう。原題は“A KILLING FROST”フロスト殺しって、まさか最終話であのフロストが――なんて話ではないからご安心いただきたい。でも、いうまでもなく本作は作者R・D・ウィングフィールドの遺作なんであります。つまり、永遠にお別れということは間違いない。
 最終話ではあるけれど、フロストは相変わらずスケベで下品で、マレット署長も相変わらず嫌な野郎で、そして、お約束の嫌な敵役も今回はジョン・スキナーというとびきり嫌なやつが登場する。と、ここまで書いてきてあれれと思うのですね。
 昨年の10月、おれは本ブログで『キリング・ゲーム』を取り上げたとき、嫌いなミステリの典型として横山秀夫作品やこの作品を挙げてこう書いている。

 本作でも、カーソンは周囲のゴタゴタにかき回される。上記の優秀なる監察医ドクター・クレアはカーソンの新しいガールフレンド、ウエンディ・ホリデイに嫉妬する。ウエンディはポリスアカデミーの学生で皮肉なことにカーソンの11歳年下。頼もしいチームの一員との関係が悪くなるのは読んでいて哀しくなってくる。いや、それより何より上司であるカールトン・パグス本部長(署長)から徹底的に憎まれて、休職処分にされてしまうあたりも、なんか取ってつけた「災厄」みたいでやり切れない。今回の犯人は異常な連続殺人鬼だけど、カーソンに直接危害を加える、つまり対峙するようなことはないのだ。

 そうなんだよなあ。周囲の人間関係に悩む主人公なんか、本来クソ食らえ(失礼)のはずなのに、フロストシーリーズの読者ならご承知の通り、フロストシリーズなんかもう全編上司(マレット署長)と其の手下(今回はスキナー主任警部)のネチネチした嫌がらせのオンパレード。なのに、それが全く気にならないのは、総て主人公フロストのふてぶてしいまでの強さのせいなんだろうだろう。カーリイ作品の主人公カーソン・ライーダーならぶち切れて、会議室の椅子の一つも叩き壊すだろうシチュエーションが続いても、フロストは蛙の面に水を装って(腹の中は煮えくり返っていても)スルーしてしまう。明らかに役者の違いを見せられれば、読者――少なくともおれはイライラしないのだ。
 実はそれだけではない。これまたフロストシリーズのパターンの「子供殺し」が今回も登場する。子供が被害者になるのは現実ばかりでなく、虚構の中でもタブーにしたいくらい嫌い(だから、ヒッチコックの『サボタージュ』もキングの『ミスト』も大嫌い)なのに、フロストシリーズでは悲惨だとは思っても、本を投げ捨てるような気分にはならないのだ。こちらは、フロストのキャラのおかげだけで片付く問題とは思えぬにせよ。
 今回もフロストはやぶれかぶれながらも期待に違わぬ活躍をして、事件は見事に解決する。このシリーズ全作、「このミス」海外部門第一位なんだよなあ。でも、もう新作は読めないんだよなあ。
 第一作から全作読み直すか。

キリング・ゲーム (文春文庫)

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サボタージュ [DVD]

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ミスト (字幕版)

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