僕にはわからない 中島らも

 インターネットなかりせば
 今回のエントリでは瀬戸川猛資を取り上げる予定で、そう予告もしたのだが。
 五十歳で夭逝した瀬戸川の数少ない著書の一つである『夢想の研究』を発掘(書庫雪崩)してしまったので、こちらも取り上げることにした。そんなわけで、ちょいと先に送らせてもらうことにします。
 
 さて今回の書斎雪崩発掘本は中島らも『僕にはわからない』。毎回同じことばかり書くようだが、そろそろ「中島らもって誰?」なんて言われる時代になってきたかな。まあ、ご存じない方は調べて頂くことにして勝手に進めさせてもらおうか。
 本作は中島らもの雑誌掲載エッセイを集めた本だが、その中に「花形文化通信(ミニコミ文化が盛んな京都で100号まで続いたフリーペーパー)」に連載されていた「悪人列伝」という記事がある。中島は「『悪監』について」という回でこんなことを書いている。

 昔、僕はイタリア製西部劇のマニアだった。中学生だった僕は、いつも日曜日になると、チャリンコをこいで尼崎市内の映画館をハシゴして、日に六本の洋画を見ることもあった。その頃はおりしもマカロニ・ウエスタンの大ブームだったので、日本で公開されたものはほとんど見たと思う。

 そして、『殺しが静かにやってくる』という作品を取り上げるのだが、

主人公はジョン・フィリップ・ロウで、悪役はクラウス・キンスキー。

 ん? と思ったが、突っ込み様もないので読み進めたら、なんと次章の「マカロニ悪役の謎」で早速訂正が入っていた。

 さっ、おあやや(ママ)読者におあやまりなさい。というわけでまずはお詫びである。前回、『殺しが静かにやってくる』のグレート・サイレンス役をジョン・フィリップ・ロウだと書いたが、何人かの読者からご指摘されたとおり、これは誤り。正解は、ジャン・ルイ・トランティニアンである。実は書くときずいぶん迷ったんである。ジョン・フィリップ・ロウもマカロニ・ウエスタンに出ているのだ。どちらも「へえ、こんな役者が」と驚いた記憶があるので、どれがどれだかわからなくなってしまったのだ。

 ああ、この気持はよく分かる。ついこの間まで、おれも原稿を書いていて、わからないことが出てくる度に、図書館や書店に資料を漁りに行ったものだ。今ならネットで検索すればなんでもないことなんだが。で、中島は続けて「へえ、こんな役者が」の例を挙げているのだが。

 日本人でただ一人マカロニ・ウエスタンに挑戦したのは仲代達矢である。『野獣暁に死す』という、実にしょうもない作品だったが、蛮刀を持った盗賊の首領に扮した仲代達矢だけは強烈なインパクトを与えていた。

 『野獣暁に死す』は1968年の作品。うーむ。これだってネットがあればすぐに分かることだけど、1969年には丹波哲郎が『五人の軍隊』というイタリア映画で日本刀を振り回しているんだけどね。さらに。

 謎といえば、劇場公開もされなかったくらいの駄作で『新・荒野の用心棒』というのがある。フランコ・ネロ主演なのだが、どうしようもない作品だった。この映画に、なんとパゾリーニ監督が出ているのだ。

 ヲイヲイヲイとつぶやきながら読み進めたのだが、ついに最後まで訂正はされなかった。マニアック過ぎる話題なので、読者からの指摘もなかったのだろか。
 なにがおかしいかというと、『新・荒野の用心棒』は東宝東和配給で日本公開されているし、主演はウィリアム・ボガートなんである。むろんのことパゾリーニは出演していない。
 中島が間違えたのはカルロ・リッツァーニ監督、ルー・カステル、マーク・ダモン主演の『殺して祈れ』のことなんでしょうね。こちらにも、フランコ・ネロは出演しておりません。
 いや、ネットがあれば簡単に分かったことだったのに、と申し上げたかった次第です。

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