裸で困惑するということ

 フロイト夢判断実践

 フロイトは自著『夢判断』の中で定型夢というものを説いている。誰にでも覚えがあるであろう夢のパターンだ。周囲ががら空きで丸見えのトイレで用が足せない夢(足せたら大変)とか、試験が近いのに全く勉強していないで焦る夢、電車に乗り遅れたり、間違った電車に乗ってしまう夢。その中に裸で困惑する夢というものがある。
 雑踏の中でズボンを履き忘れたことに気付く、正装したのに靴ならぬスリッパを履いていたとか、面白いことに性的な夢の中で裸になって女性に近付こうとして、なかなか裸になれないで困惑するのとは正反対の感情だ。で。
 実はこの裸で困惑する夢を現実で体験してしまったのである。
 まさか全裸で歩き回ったわけではない。やってみたい気もするが寒すぎるし(そういう問題ではないぞ)。昨日、私鉄某駅の改札を入ったところ、向かいから歩いてきた、身長2メートルはあるだろうという黒人がいきなり、
「すみません」
 と話しかけてきた。「スミマセーン」ではない完璧な日本語だった。なんかの勧誘か。訝しがる間もなく、男はおれの肩越しに後方を指差した。振り向くとそこに紙おむつみたいなものが転がっていた。訊き返そうと思ったときには、男は既に改札の外を歩いていた。仕方なく、その紙おむつのようなものに近付き確認して驚いた。
 それはなんとおれのスニーカー(NIKE AIR)の底だった。底がすっぽ抜け、おれは指摘されるまで気付かずにいたのだ。まあ、なんとみっともないことか。慌てて靴を突っ込んだが、どうやっても一体化しない。踏みつけたまま引きずって歩けばなんとかなるが、これはこれでみっともないし、階段の昇り降りも出来ない。背に腹は替えられず、おれは靴底をポケットに突っ込んでエスカレータを降り、電車に乗った。足の裏と文字通り革一枚コンクリートの冷たさがモロに伝わってきた。
 隣駅の改札を出るとすぐ横にコンビニがある。ゼリー状速乾という接着剤を買って、チューブ一本絞り出ししばらくこんなふうに立っておりました(鏡像を撮影し左右反転して使用)。

 今年になってこんな事故二度目。雨の中に接着剤を溶かすような成分でも混じっているのか知らん。

 この靴ももう履けないから、新しい靴を買わなくては。大散財だよ全く。
 しかし、焦りました。夢の中の困惑に完全に一致